フレー フレー

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 オリンピックで番外種目だった綱引きを復活させよう、という運動があるらしい。なんでも八人ずつで引き合う国際ルールを浸透させて、2012年のロンドン五輪への参加を目論んでいるとか。このスポーツ、今では運動会の定番競技になっているが、もともと豊作や豊漁を願う年占の行事だった。
 稲藁や茅を材料に、男女の性器を象ったものを作り社寺に納めたり、太綱を綯い、二組に分かれて綱を引く。賑やかに囃したてて競い合うという神事は、今でも全国に分布している。奈良では正月に太い「お綱さん」を打って、男たちが村中を練り歩く。勝ち負けにこだわらず、悪疫や災禍を防ごうという祈りも籠められていたに違いない。
 歌舞伎の荒事にも「象引」「車引」など、この引っ張りっこがたくさん取り入れられている。今年の顔見世では「正札附根元草摺」が幕開き狂言。単純明快な筋を象徴するように、登場人物は二人だけである。兄の十郎の危急を知った曽我五郎が、鎧を引っ提げて飛び出そうとする。それを朝比奈の妹舞鶴が、血気に逸ってはならないと、鎧の草摺をつかんで引き止める。「離せ」「留めた」というこの立回り、女ながらも大力と聞こえた舞鶴との引き合いが見ものである。
 外国ではやたら勝敗を決めたがるが、日本では儀礼的にぼかすことも多い。あちらを立て、こちらも立ててご安心というように、ナアナアが罷り通ってきた。野球のルールで引き分けがあるなんて、日本だけだそうですね。
 勿論この長唄舞踊は勝ち負けではなく、引っ張り合いを美しく見せるのが主眼である。こういう曖昧さは「いい加減」という風潮を生むかもしれないが、白黒をつけない、つまり「よい加減」が広がって世界平和に繋がらないものかと思ったりする。
 我々は呱々の声をあげると同時に、死へ向かって走り出しているのだから、せめて戦争のない世の中で、時間との綱引きを楽しみたいんですがね。(挿絵・川浪進)

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08/11/28│歌舞伎のツボ│コメント2

コメント

お春さん

「吉例顔見世興行」の「まねき」が掲げられたのを、ニュースで見やしたよ。

「正札附」って言うんですから、絶対に面白いのですね。うーん、たった二人だけの登場人物で…?

サッカーはご存知の通り、引き分けがありやす。前節、イングランドのプレミアリーグでトップ3のクラブチームが揃いに揃ってスコアレス・ドロー!イヤー!珍事!ビックラこきやした!

またこれもご存知のように、タイトルがかかっていたり、勝ち負けをはっきりさせなきゃいけないときは、延長戦。それでも決着がつかないときは、PK戦です。

サッカーも数々の悲劇がありやした。1950年の「マラカナンの悲劇」。W杯開催国のブラジルが、ウルグアイとの優勝決定戦に逆転負けを喫し、2人がその場で自殺、2人がショック死。

85年の死者39人、負傷者400人以上と言われる「ヘイゼルの悲劇」。これはサポーター同士の衝突。89年の死者96人、負傷者200人以上の「ヒルズボロの悲劇」‥。

サポーター同士の衝突は毎年、どこかこっかでありやすよ。日本のJリーグでも。たかがサッカーでありやすが!

お春さんの最後の言葉が身にしみやすね。
「せめて戦争のない世の中で、時間との綱引きを楽しみたい。」

昨日、インドで同時テロが起こったばかりですものね。また、摩訶不思議な事件も多いこの頃です。文明が進むと、かえって世の中おかしくなるのかしらん?

好きで時代劇ばかり読んでいやすが、江戸時代って平和だったみたいでがんす!

師走の風物詩となっているとの「吉例顔見世興行」。いいですなぁ♪京都の皆さんは!

お春さん、進先生、師走でっせ!お風邪など召しませぬよう…手綱を締めてくだしゃんせ…!
「フレー!フレー!」イッシッシ♪

春香さん

「フレーフレー」と誰かを応援したくなること、よくありますね。
たとえば、きょうのような寒い日でもグラウンドで練習している野球少年達。
風に向かって、手押し車を押して歩いているおばあちゃん。
そして、毎週毎回中身の濃い文章を披露してくださる春香さん。
遠くから、心を込めて「フレーフレー」と応援しています。

歌舞伎の舞台話から、いつも心の有り様へと誘ってくださいますね。
心の引き合いは、均衡が保てなくて当たり前、人の心は自分の思うままになど成りはしない。
これは歌舞伎にもよく出てくるのではないでしょうか。
それが解っていながら、喧嘩をしたり、戦争になったり、いつの世も続いています。
人と人との間が「安かれ」と毎日祈りたいですね。
いつかは誰もが死ぬと思えば、誰にも優しくできるのでしょう。
死は平等に万人に与えられ、生のすぐ隣にいます。
ただ、与えられたこの世では、楽しく日々を過ごしたいですね!
なんて、悟りきったようなこと言って、悟っていない証拠です。

そうそう、先日演劇を観に行ったのですが、隣の席におばあちゃんがひとりで来られていました。
杖を持ち、ひとりでぼんやりと…。
舞台が始まるとすぐに安眠されました。
ところが「ご~ご~」いびきが凄いのです。
後ろから横から、たまりかねて、つっつく人がいました。
なんだか私も責められているようで、困った困った。
たまに、つんと肩を合わせるのですが、余計に安心したかのように「ぐお~」。
まあそれでも、いいか~と我慢の2時間半でした。
ひょっとしたら、ひとり暮らしのおばあちゃんは、いつも安眠できなくて、
イライラ不機嫌な毎日。
大勢の人に囲まれていると、人の温かさで安心して、高いびきをかけるのかなあ。
なんて想像していたのです。
こうした場合はどうしたらいいんでしょうね。
歌舞伎のお客様には居られないのでしょうねえ。

でも、ホントに気持ちよく寝ていらした。

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