京都民報
なるほど京都

京のお人形

人形寺・宝鏡寺学芸員が語る、京のお人形話あれこれ。

著者:田中正流

菊水鉾の菊丸さん

菊水鉾 菊水鉾は、江戸時代末の元治元(1864)年のどんどん焼けの火災で焼失してしまい、以後再興されず、休み鉾とされていましたが、昭和28(1953)年に松本元治氏等の熱意が実り、復活した昭和の鉾です。
  豪華な唐破風の屋根を持つ唯一の鉾であり、「菊水」と篆書(てんしょ)が掘り出された額を掲げています。町内にあった菊水井戸に由来して名付けられ、金色の菊花を鉾頭に付け、真木の中ほどの天王座には彭祖(ほうそ)像、唐破風上には恵比須像を祀っており、不老長寿と商売繁盛の粽(ちまき)が授与されています。また菊水鉾は再興以来年々、芸術家達の寄贈によって装飾が充実していて、稚児人形もその一つです。
 昭和31(1956)年に人形司松屋15代目守口源次郎氏によって寄贈されました。稚児人形は、「菊丸」と名付けられ謡曲「枕慈童」に取材します。
菊丸 菊丸さんは等身大の子供の大きさで、菊花文様をあしらった金襴の能装束を着た京人形らしい上品なお顔立ちをしています。京人形は京都を代表する伝統工芸であり、頭、髪付、手足、小道具、着付などが各職方によって専門的に分業化され、それぞれが独特の味わいと風格を持っています。また吟味された材料と、金襴などの高級裂地により優雅に作られているのが特徴です。もちろん菊丸さんも例外ではありません。
 江戸時代初期より続く京都でも老舗の人形司である松屋がプロデュースし、頭は人間国宝面竹4世岡本正太郎氏、胴体は御所人形を得意とした北尾福三郎氏、小道具類は正木政市氏、着付は片岡光春氏といった各職人によって制作されています。京人形はこのように様々な伝統工芸の技の集大成されたものだといえます。
 会所の人々の守り伝えたいという熱意によって復活した菊水鉾の、多彩な伝統工芸の技と粋をぜひご覧ください。

写真:菊水鉾保存会提供