京都民報

京のことば

今ではあまり聞かれなくなった京ことば。京ならではのことばと意味を紹介します。

木村恭造(「京のことばを残す会」助言者)

オス (おす)

 京都語の敬語の助動詞には、「~オス」もある。存在動詞である在(あ)りますの「~オス」ではない。この「~オス」は多くの形容詞につき、丁寧な~ですの意を表すが、辞書ではあまりでてこない。そやけど、「寒むオスナア」とか「今日は暖かオスエ」などと京都では現用する。そのため、文献では適当な用例がみあたらないので、庶民の句である雑俳でみると、「天狗じやなあ いいえ私しは低おますし」弘化3年(1846)とか「目にある色 悪おますかえもたれたら」安政5年(1858)などと幕末には「~オマス」の形でいろいろとでてくる。
 その「~オマス」が、明治40年(1907)に高浜虚子が書いた『風流懺(せん)法』という小説をみると、舞妓のことばで「ようオスヤロ」とか「一念ハンが帰らハッてさびしオスヤロ」といったように「~オス」の形でみられる。これらの通史的な用例からみると、「~オス」は丁寧の意「~オマス」が約されたものといえる。