京都民報

京のことば

今ではあまり聞かれなくなった京ことば。京ならではのことばと意味を紹介します。

木村恭造(「京のことばを残す会」助言者)

ニヌキ (にぬき)

 「ニヌキ」は、黄身の芯(しん)まで煮抜いたゆで玉子のことである。やかんなどに入れた熱湯でコトコトと煮て、水で冷すと玉子のからがポロリとむけるようになる。味塩などをつけてたべるとおいしいし、弁当のおかずにもなる。けれど、これを「ニヌキ」とよぶ地域は意外と狭く、京都に隣接する大阪、奈良、滋賀のあたりに限られている。江戸者が書いたといわれる『浪花聞書』文化2年(1819)では「煮ぬき玉子、ゆで玉子也」とある。
 雑俳でみると、「しっかりと君抱きしめるゆで玉子」明和元年(1764)とあるのが、天保4年(1833)の句になると、「むまいぞむまいぞ 玉子の煮ぬき手に入る」とでてくる。また、江戸期の談義本には「煮抜玉子を大口に頬張り」などとあって、どうも江戸中期ごろからでてきた語らしい。京都北部周辺部である岩倉や高雄では「ユヌキ」という。