京都民報

京のことば

今ではあまり聞かれなくなった京ことば。京ならではのことばと意味を紹介します。

木村恭造(「京のことばを残す会」助言者)

ナリ (なり)

 「ナリ」は、動詞の成るの連用形が名詞化したものである。大別して、(A)形やかっこう(B)体裁や世間体の意味とになる。この語は古くからみられ、有名な『伊勢物語』に「その山は、ここにたとへば、比叡の山を20ばかり重ねあげたらむ程して、なりは塩尻のやうになむありける」と富士山のことをいっている。京ことばでは「大きなナリして、なにしてンニャ」「そんなナリの悪いことセントイテ」といったように用いる。
 庶民がつくった雑俳でみると、(A)の意で「介抱に 崩した形(な)りがかいがいし」寛政12年(1800)とか「手を入れて 洗ふた足袋の形(な)り直す」明治36年(1903)とあるし、(B)の意では「なりがよい 虻(あぶ)とばしても二けん茶や」天保4年(1833)などとある。古い時代から「ナリ」という語形は変わらないが、体裁や世間体の意に変わるのは江戸期になってからのことで、その方言圏も近畿や四国に限られている。