京都民報

京のことば

今ではあまり聞かれなくなった京ことば。京ならではのことばと意味を紹介します。

木村恭造(「京のことばを残す会」助言者)

クチナワ(くちなわ)

 「クチナワ」は蛇の異称で、俗にいう青大将の意であって、古いことばである。承平年間(931~938)の漢話辞書『和名抄』に「蛇、久知奈波」とある。また、安永4年(1775)の『物類呼称』に「関西及四国でくちなは、関東でへび」、文政4年(1821)の『浪花聞書』では「くちなは。蛇のことをへびといわず」などとある。しかし、この古いことばが京都市の周辺部の八瀬、大原、雲ヶ畑、また北部の竹野郡、熊野郡、南部の京田辺市、精華町などに残っている。市内ではあまり使われなくなったが、周圏論的な一例といえようか。  雑俳でみると、「行水嬶(ぎょうずいかか)口縄を見て飛び出たり」文化4年(1807)、「わんぱくざかり くちなわ殺して取る弟」弘化2年(1845)などがある。語源は「クチナワ」(口縄)からかなどいわれるが、「クチナ」「クチナゴ」などと音変化し、蝮(まむし)のことをいう「ハメ」とは区別されている。