京都民報

京のことば

今ではあまり聞かれなくなった京ことば。京ならではのことばと意味を紹介します。

木村恭造(「京のことばを残す会」助言者)

グジ (ぐじ)

 「グジ」は京都的なことばで、甘鯛(あまだい)のことである。慶長8年(1603)の『日葡辞書』には「グヂまたはクチ、海の魚の一種」とあるが、地方によっていろいろな呼び名があってわかりにくい魚である。辞書などでは「イシモチ」(石首魚)とでて「クジ」は方言的な異称とある。が、この語の方言範囲は狭い。元禄8年(1695)の『本朝食鑑』には「京師、俗に久知と云也」とあり、文化11年(1814)の『大阪繁花風土記』では「京にてぐぢ、大阪にてくずな、あまだひ」とある。事実、5年間ほど住んだ大阪府の枚方市で、「このグジください」といっても甘鯛でしか通用しなかった。
 江戸後期の川柳に「石持ちといへどもかるい肴(さかな)なり」とあるが、上方雑俳になると「禁酒して 惜気なう投(ほ)るぐじのあら」明治36年(1903)となる。この魚、頭骨に石がのっているようなので「イシモチ」、口が大きいところから「グジ」と濁ったのではないか。