京都民報
なるほど京都

京の菓子暦

茶の湯と京文化に磨かれ、育まれた京の和菓子。四季折々の京の和菓子を紹介します。

甘楽花子 坤庵

11月

  秋の相も様々、初秋、萩の露、虫の声…。七草が咲き、空には親しく野面に寄り添うような月がかかり、雁行を淡く照らす中秋。山々が頂から次第に染まり、やがて全山が燃え立つ錦秋へ。杣路(そまじ)に霜置く冷涼な朝、苫屋の門に散り敷いた落葉を踏みつつ、吹き寄せを楽しむ晩秋へと季節は移ろっていきます。
  今月は錦秋から晩秋にあたりますので、紅葉・鹿・菊に取材したお菓子をご紹介いたします。

奥山(おくやま)【雪餅、漉し餡、粒餡】

猿丸太夫
 奥山に 紅葉ふみわけ 鳴く鹿の
 声きく時ぞ 秋はかなしき
   
から取ったお餅のお菓子です。  
  漉し餡を入れて練り上げた茶色の餅で粒餡を包み、俵型に伸し、焼印で背筋のように一本筋を入れ、粒々の感じとともに鹿の背中をあらわしています。


杣路の朝(そまじのあさ) 【こなし、漉し餡】

  こなしを使った定番のお菓子で、このような形をしたものを「山道」と呼び、更に時候に合った菓銘が付けられます。こなしを色づけし、長く伸して芯に餡を巻き、上に山形の筋をつけ、小口切りにして使います。
  これは霜を表すのに氷もちを散らしております。 芯の餡やこなしを様々に色づけすることで千変万化、きんとんと同様一年中楽しめるお菓子です。


一重菊(ひとえぎく) 【上用・漉し餡】

一重菊  漉し餡を包んだ上用の頭をへこませ、それを縁どるように丸く焼き色をつけ、こなしの黄色で匂(におい:花芯)を表現し、菊をかたどっています。
 秋の上生菓子というと、「栗」や「柿」が思い浮かびますが、「菊」も定番のお題です。
 秋の深まりとともに大輪の一輪菊が盛りを迎え、各地で菊花展が開かれるころ、山々も錦の衣を纏い、秋も終盤を迎えます。一年の最後に咲くことから、漢名の「菊」には「究極、最終」の意味があります。菊のお菓子が出始めると、この一年もそろそろ終わりに近づいたことを感じます。


生地のお話

【薯蕷(「上用」は当て字)】  つくね芋をすりおろし、米の粉のきめ細かい上用粉、上白糖と練り合わせて生地をつくり、軟らかく炊き上げた上用餡(漉し餡)を包み、強い蒸気で蒸上げたお菓子のことを薯蕷饅頭と言います。
 室町時代に中国から伝わったお菓子で、古くから格調の高い菓子として儀式の時などに用いられてきました。少し前までは嫁入り饅頭などと申しまして、嫁がれた先でお披露目にご近所やお知り合いに配られ、ご挨拶されたものです。
 つくね芋は丹波地方特産。ここでも京菓子は地の利を得ています。他には伊勢芋、いちょう芋、長いもと自然薯(じねんじょ)の交配種などありますが、蒸上がりのきめ細かさ、生地の腰の強さ、香り等、つくね芋は郡を抜いています。