京都民報
なるほど京都

京の菓子暦

茶の湯と京文化に磨かれ、育まれた京の和菓子。四季折々の京の和菓子を紹介します。

甘楽花子 坤庵

9月

  月の始まりが二百十日、八日白露、九日重陽と節気や伝統の行事が連なっています。月末に近づきますと二十三日秋分の日、二十五日に十五夜と、先祖供養に名月の鑑賞にと事の多い月と言えましょう。
 まだまだ残暑は厳しいものがありますが、朝夕吹く風に涼感というよりも秋風の爽やかな冷気を感じるこの頃。お菓子の世界も衣更え、餅やこなしの生地、きんとんが戻ってくるのがこの月です。
 名残の葛は葛焼に仕立て、こなしでは重陽の菊、芋名月の小芋、萩の優しく伸びた茂みを写した小萩餅、萩きんとん、初雁きんとんなど…。
  今月は葛焼で「旅衣」、こなしで「小芋」、そして「萩きんとん」をお目にかけます。

葛焼【旅衣】(くずやき:たびごろも)【葛、漉し餡】

葛焼 蕨(わらび)粉も葛粉も純度の高い良質の澱粉(でんぷん)ですので、生地として使うだけでなく、そのものを食べても充分美味しく、お菓子になります。蕨餅はおなじみですし、葛焼、葛切、葛そうめん、葛団子など楽しめます。
 葛焼は葛、上白糖、水、漉餡を練り合わせた生地を蒸しあげ、冷めてから上用粉をまぶして焼目をつけたお菓子です。焼目のついた葛の肌が侘(わ)びた風情を感じさせます。


小芋【名月】(こいも:めいげつ) 【漉し餡、こなし】

小芋   京菓子では数少ない、物そのものを形づくったお菓子です。
 こなしが白餡、芯は漉餡で、白小豆と小豆の風味が混ざり合って、また別の風味を生んでいます。
 頭につけた小さな丸は、里芋の子芋です。焼印を筋状に焦がしてつけた焼目で、土のついた感じを出しています。


萩きんとん(はぎきんとん) 【きんとん】

萩きんとん  たおやかに伸び広がった萩の枝、小さな楕円形の葉の間に紅や白の花が彩りを添えます。
 きんとんはお菓子の基、“餡”の味がそのまま出ますので、丹波大納言の風味と白小豆の風味だけで勝負するお菓子。菓匠にとって、自信作と言えばそうなのですが、一番こわいお菓子です。
 素材の小豆の味プラス各店の餡づくりの丁寧さがはっきり出ます。きんとんばかり食べ比べてみられるのもお菓子好きの方なら楽しいと思います。