京都民報
なるほど京都

京の菓子暦

茶の湯と京文化に磨かれ、育まれた京の和菓子。四季折々の京の和菓子を紹介します。

甘楽花子 坤庵

2月

 着更着とも言う。二月。寒さ、冷たさの底のような月初めから、木々の梢や鳥、自然のうつろひが春の兆(きざ)しを見せる月末、多彩なお菓子が創られてきました。今月は月初めにちょっと変わったきんとん、“丹頂”、こなしの未開紅、月末に出ます“早蕨”を紹介致します。  そうそう忘れてはいけない月初めの行事が節分。暦の上では冬と別れて春を迎える日。この日には薯蕷(じょうよ)でお多福さんを創ったり、豆撒きの枡を作ったりします。寒い時季と言うことで、この月に使われる生地は薯蕷やこなしと言った舌触り、口ほどけの厚ぼったい様なものが好まれます。茶の湯の席では大炉のお点前とか、一人用の蒸籠で薯蕷の蒸したてを出すといった暖かさの演出が見られるのもこの月です。

丹頂(たんちょう) 【きんとん】

丹頂 ちょっと変わったというのは、そぼろの事です。普通のきんとんよりずっとずっと細いそぼろがついています。これはねりきりと言う物です。つくね芋を蒸し、裏濾し、白餡と練り合わせた生地です。これを毛通しと言う馬の尻尾の毛を編んだ篩(ふるい)で通した物でとてもなめらかな舌触りとつくね芋の風味、彩の鮮やかさが楽しめます。天頂にのった赤い印は丹頂鶴の頭の紅を表しています。中は黄身餡が約束ですが、これも寒い時季の甘さの工夫の一つです。


未開紅(みかいこう)  【こなし製 こし餡】

未開紅 私たち菓子職人の先輩誰方が創られたものやら、今開きかけた梅の蕾の一瞬を捉えた見事なお菓子です。菓銘はみかいこうと読みます。二段重ねのこなし生地を伸展して正方形に切り、中に漉餡を入れ、四辺を寄せただけの物ですが、襲(かさね)の色目の美しさ、型の斬新なデザインの如月定番のお菓子。先輩には脱帽です。


早蕨(さわらび)  【わらび餅 漉餡】

早蕨 近年、わらび餅と言いますと、容器に流した物をサイコロに切り、黒蜜や黄な粉をまぶした甘党屋さんの物を思われる方が多くなってきました。私どものわらびもちは本当にごく限られた時季、この月の終りから弥生三月の初めにかけてだけつくります。
 蕨の根から採った蕨粉と呼ぶ澱粉を上白糖と練り合わせた生地には独特の香りとプリプリの張りと粘りが有り、この生地で肌目(きめ)細い漉餡を包んで、黄な粉をかけた物が京菓子のわらび餅です。原材料の中ではもっとも希少で高価なものです。



生地のお話

【こなし】  一般に間違われやすい生地の一つです。ねりきりとよく間違われるのですが、ねりきりは京菓子の世界ではつくね芋のねりきりだけを指します。
 一般にねりきりと言われているのは、関東から来た餅ねりきりの略称で、内容も製法も私どものつくる“こなし”とは全く別の物です。
 こなしは白餡、または漉餡に小麦粉を練り合わせ、蒸し上げたもので、小麦粉のグルテンを利用して生地としての粘りを出してあり、白餡、漉餡の旨さプラス小麦粉の風味が相俟って独自の美味しさを楽しめます。