京都 町家の草木

編笠百合

編笠百合
アミガサユリ【バイモ科バイモ属】
 花びらの内側には細かな網状の模様があり、花芽の付け値から伸びる先端の葉は細く、先はくるりと丸まっている。地面近くの葉は茂り、そこから細い茎が伸び始めると葉と葉の間隔が伸びて、茎の上部に編笠のような形をした花を咲かせる。この地味な花は幼女の心を捕らえることはなかったけれど、ある春のこと、先端の葉の不思議な弧に惹(ひ)かれ、それからしげしげとこの花を愛でるようになった。
 根は小さな百合根状の球根。庭のあちこちで5、6株の群生を作る。花が終わると、いつの間にか株ごと姿を消して地中で長い休眠にはいる
 三月の春は気まぐれで、まだ小雪のちらつくこともある。それでもしゃがんで地面をよく見ると、おそるおそる伸び出した蓬や草の影で虫たちは活動を始めている。蟻(あり)も目覚めている。ひらひらと春風に身をゆだね軽やかな小さな蝶々の舞姿に誘われ、日だまりに温もりながら庭を見回る。ふと、白い割烹着にもんぺの祖母の姿がよみがえる。飼い犬のマリも必ず傍にいる。
 「今年はどんな花が咲くかいな」そんな声が聞こえてくる。
 胸の内で祖母に話しかけながら、「こんな歳になったんやなあ」と我を振り返る。土に向かって午後のひと時を過ごしながら、とりとめのない思いや心に引っかかって取れない種々を胸の引き出しに仕舞う。
 まるでぬかるみに足を取られて気持ちばかりが焦って先急いでいるような心のときには、「急(せ)いてもあかんのえ」と声が聞こえてくる。
 「待つ」ことを覚えたら自然が近づいてきた。
2010年3月 5日 13:14 |コメント1
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絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

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コメント

こんにちは。「編笠百合」、初めて知りました。これは、節分草とか二輪草、かたくり等の仲間ですか?文中の、地面近くの葉から茎が伸び・・・株ごと姿を消して長い休眠にはいる・・というところを読んで、そんな風に勝手に解釈してしまいました。お庭には、どのくらいの植物があるのでしょう?

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