京都 町家の草木

黒松(雄松)

黒松
クロマツ【マツ科マツ属】  お目出度い木として古より慶ばれてきた松。万葉集より新古今和歌集に至るまで「まつ」に「想い人をまつ」「吉兆をまつ」という意を詠み込んで希望の心が託されている。
 また、お正月には新年を迎える家々の門口には歳徳神(としとくかみ)の依代(よりしろ)として「門松」や「根引き松」が飾られ、その歳の福徳を司る神が迎えられてきた。戸口には神聖な境界を示し魔除けとするために「注連縄(しめなわ)」が張られることもある。ただ、神を祀る習いは浄土真宗を信仰する家にはなく、当方でもしないのが慣例となっている。
 洛中に残る古い家々の庭は、奥に細長く伸びた敷地の一番奥に造られているから表の通りを歩いて庭の緑が目にはいることは少ない。それでも立派な松が高い塀の上にこんもりと緑をのせているのに出会うことがある。これは「見越しの松」。代々続く家の象徴のように誇らしげに顔を覗かせている。
 松は庭の景色に風格をもたらしてくれるけれど、美しい樹形を保つにはなかなか手間を要する。立派な見越しの松が見える近所の家に庭師が入っているときなど、その内のひとりは松に登って1日がかりで松葉を手でむしり取る作業に追われている。出先からの帰りがけに同じ家の前を通る夕刻にはすっぱりと調えられた松が塀越しにみえて、新年の訪れをまつばかりとこちらまで晴れやかな気持ちとなる。
 裏庭の松は雌雄あわせて3本。どの木もまだ若く塀より低いが黒松は両親にとって初孫の誕生記念として植えられた。
「共に立派にお育ちや。」黒松には、こうした願いと思いが託された。
 ひょろひょろしていた若木も20年を経てずいぶん太くなってきた。肌も亀甲に割れはじめて年の重なりを伝えてくれる。
2010年1月 1日 10:00 |コメント1
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絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

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コメント

こんばんは。お庭に植えてある草木それぞれに、いわれがあるのですね。思いが込められている記念樹は、特別なもの。とても温かい気持ちになりました。

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