京都 町家の草木

貴船菊

貴船菊

キブネギク【キンポウゲ科イチリンソウ属】
 秋風に長い首をお辞儀させながら、その先には銀色の産毛に覆われた蕾がポロリと付いている。咲けば一重の白い花。ふさふさとした雄しべの中央に丸くて黄緑色の雌しべが埋もれている。貴船菊は、八重で濃いピンク色の花が主流だけれど、白い花を好ましく見てしまう。
 薄暗がりの座敷には、鶴首の一輪挿しに生けた白い花が良く映えて、静かに時を刻んで、いずれ夕暮れの闇に姿を隠す。
 秋の庭は調べにあふれている。様々な虫の音、葉の擦れ合う音色。
 秋の草は形と色にあふれている。早々と紅葉し始めた葉には、思いも寄らない色が滲み出て、様々な葉の形と色は互いに交差し合って融合する。
 秋の光はゆれる影に守られている。西窓から部屋の奥深くに差し込む光は影の中で形を得て消えてゆく。
 穏やかな日暮れは静寂の心を生んで、白い夕べへと連れて行く。
 この夕べは、明日のために用意されている。
2009年9月25日 15:19 |コメント2
絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

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コメント

紙面1面のワンショット「京都町家の草木」お気に入りです。毎号楽しみで切り貼りストックして常時眺めながめています(解説もたいへん楽しみです)。
気が落ち着きます。末長く続けて欲しいと思います。

H.Yさん
 コメントをお寄せいただき、有難うございます。
いつも「静かな時のなか」を描ければいいなーと心に抱きつつ絵筆を取っています。まだまだ「思い」と「技術」に差があって、一枚一枚模索しながらの「草木」ですが、これからも宜しくお願いいたします。

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