釜の“争奪戦”激化で、炊き出しの大釜まで狙われる事態に ©2017『月夜釜合戦』製作委員会

 社会の周縁にいる人々への共感

 京都市伏見区出身の映画監督・佐藤零郎(れお)さん(37)が再開発にゆれる大阪市西成区釜ヶ崎を舞台に、16㍉フィルムで製作した喜劇映画『月夜釜合戦』が、ポルトガルの「ポルト・ポスト・ドック国際映画祭」(11月24日~12月2日)で最高賞・グランプリを受賞しました。弱者に寄り添い、体制に批判的な視点が評価されました。

 『月夜釜合戦』は、釜ヶ崎に拠点を置く「鎌足組」組長継承に必要な代紋入り釜が消えたことに端を発した釜の〝争奪戦〟に、野宿者を公園などから締め出そうとする行政・開発業者と住民の抗争をからませたドタバタ喜劇。

 大阪市が長居公園の野宿者を強制撤去させた際に、野宿者と支援者の抵抗をドキュメンタリーに収めた佐藤監督が、劇映画に挑みました。

 5回目となる同映画祭は、先鋭的なプログラムで欧州の映画評論家から注目を集めています。「社会の周縁へ追われる人々への共感」「日本映画の体制批判の伝統を継承する方法」の2点が評価されました。人々の厳しい生活の現実をもとにつくられた同作に『共生』、『寛容』という共同体の意味を見いだし、「賛辞を送る」と講評されました。

 佐藤は、「映画で描いた、企業の利益を擁護する行政が住環境や人々の共同体を破壊していく行為は、世界各地で起きています。受賞の経験を糧に、来春の東京上映を成功させ、世界各地の上映会につなげていきたい」と語ります。