葬儀の段取りが整い屑屋・久六(嵐芳三郎)=右=に酒を注ぐ緋鯉の半次(藤川矢之輔)

 映画『男はつらいよ』で笑いを届けてきた山田洋次監督が、長年敬愛してきた劇団前進座のために初めて書き下ろした喜劇『裏長屋騒動記』が、来年1月の前進座初春特別公演(京都駅ビル内・京都劇場)で披露されます。落語2作をもとにしたもので、正直者の屑屋や誠実な武士を登場させて人情の機微に笑いと涙を誘いながら、ウソと偽り、弱い者いじめがまかり通る今の世相をチクリと風刺。重要な家主の役に龍谷大学出身の柳生啓介が挑みます。

 山田監督は、前進座が総出演した独立プロ製作の映画『箱根風雲録』(山本薩夫監督、1952年)に東京大学の映画サークルの会員としてエキストラ出演したこともあり、伝統を踏まえ、庶民に根ざした演劇活動を続けてきた前進座に敬意を抱いてきました。かねてから前進座に喜劇を書きたいと公言。聞きつけた前進座が脚本を依頼し実現しました。

 『裏長屋騒動記』は、正直者の屑屋が浪人から買って武士に売った仏像の中から出てきた大金をめぐり、武士、浪人が「大金は受け取れない」と意地を張り合い、藩主まで登場する落語「井戸の茶碗」と、急死した乱暴者の葬儀をあげようとやくざ者の兄貴分が算段する落語「らくだ」の2題を、両作に登場する屑屋を軸につないでいます。

 紙屑屋の久六役を嵐芳三郎、やくざ者の兄貴分・緋鯉の半次役を藤川矢之輔、仏像を買う武士・高木作左衛門役を忠村臣弥、藩主・赤井綱正役を河原崎國太郎、仏像を売る浪人・千代田朴斎役を松涛喜八郎、娘・お文役を今井鞠子が演じます。

 なかでも山田監督が重視したのが家主の吾助役。「現代でも上の人は威張っていて、(その下で施策を)実行し庶民をいじめる人がいます。その典型として家主のキャラクターを設定し、店子をいじめると演じがいがある」と、戦時中の下士官などを例にあげてアドバイスしました。

 ところが、家主役となった柳生啓介は、落語「井戸の茶碗」をもとにした前進座の財産演目『くずーい屑屋でござい』で13年にわたって正直者の屑屋役を演じてきており、〝悪役〟は初めてでした。

 家賃を払わない店子を殴ったり、紙屑屋にたんかを切る場面などを自ら考案しました。10月、国立文楽劇場(大阪)での公演では、爆笑に次ぐ爆笑と盛り上がった舞台の中、店子を殴る場面で会場が静まり返るなど憎々しさが際立ちました。

思い出の地・京の舞台で晴れ姿

 親が地域労演の役員で演劇に馴染んできた柳生。龍谷大学1回生のときに役者を志し、劇団京芸の研修生になりましたが、「役者に向いていない」といったん断念。ところが3回生のときに京都教育文化センターで観た劇団「オンシアター自由劇場」の『上海バンスキング』の舞台に感動し、再び役者になると決意しました。

 親の反対を振り切って大学卒業後、劇団「オンシアター自由劇場」の研修生の道を進んだものの、劇団員にはなれませんでした。子どもの頃から憧れてきた前進座の門をたたき、役者人生を歩んできました。

 「大学卒業のときに仲間に河原町で壮行会を開いてもらい、東京に出てきました。思い出の地、京都での舞台での晴れ姿を多くの人に見ていただきたい」

 1月5日(土)~14日(月・祝)午前11時、11日(金)・12日(土)午後3時半、京都劇場。1等席10000円、2等席5000円、3等席3000円。前進座京都事務所☎075・561・6300。

 【京都府日本共産党後援会新春観劇のつどい】 13日(日)午後3時半。1等7000円、2等4000円。同後援会☎075・354・6771。

 *近畿の共産党後援会(4日)、京商連など(5日)、京建労(6日)、年金者組合(7日、9日)の貸切観劇会あり。午後3時半。いずれも30分前開場。

憎々しい表情で存在感が際立つ家主の吾助(柳生啓介)=中央=