北陸新幹線の延伸問題で、2兆1000億円もの総工費、地域交通のあり方、環境への影響など住民から不安と批判の声が上っています。公共交通問題に詳しい立命館大学の近藤宏一教授に聞きました。

■在来線充実が住民要望/計画決定は45年前、再検証必要

 安倍政権は「国土強靭化」の名のもとに、北陸新幹線延伸を進めています。敦賀―新大阪間で2兆1000億円をかける大工事が必要なのか、公共交通のあり方を見直すべき時だと考えます。

 政府・与党プロジェクトチーム(PT)が延伸の最大の理由としているのが、東京―大阪を結ぶ大動脈の「二重系」化です。これは東海道新幹線に地震などの大災害が起こった場合、人を運ぶ代替交通が必要だというものです。しかし現在でも飛行機や車など、人の移動する手段は新幹線以外にも複数存在しています。新幹線で結ばなくてはならない理由はありません。

■貨物車の運行維持に懸念が

 私が懸念しているのは、貨物列車の運行の維持です。トラック輸送のコスト増や人手不足などにより、貨物列車の役割は非常に重要になっています。しかし北陸新幹線延伸により並行在来線がJRから経営分離され、鉄道が第三セクター化した場合、従来の架線(送電線)を維持できなくなる可能性があります。実際に新潟の一部の路線では、電車では維持費がかかるためにディーゼル車両に切り替えられた路線があります。府内に並行在来線が存在するのか明らかにされていませんが、貨物列車が走れなくなれば、流通はもちろん災害時の緊急輸送にも大きな打撃となります。

 政府は延伸に経済効果があると主張しています。しかし2兆1000億円を投資することの検証は不十分です。
 府内の地元住民の多くは、電車の本数増や複線化、駅のバリアフリー化、道路整備やバス本数増など生活に身近な地域交通の充実を望んでいるのではないでしょうか。経済効果を出すならば、2兆1000億円をそうした地域交通充実へ投資した場合と比較して検証しなければフェアな税金の使い方と言えないのではないでしょうか。

 現在、南丹市美山町や京都市右京区京北、京都市北区などでルート調査が始まっています。長大なトンネルや、地下40㍍以下の大深度地下工事による地上への影響は未知数です。どんな影響があるのか詳細な検証・調査が必要です。

■大量の土砂搬出観光地に悪影響

 工事によって大量の土砂が出ることは明らかです。美山町は「かやぶきの里」など、山村再生の全国的なモデル地域です。これから本格的な調査が予想される京都市内も多数の文化財を持つ観光地です。そうした魅力のある地域に、多数のダンプカーが往来する悪影響など、工事のあり方も問われてきます。

 北陸新幹線計画が決定したのは1973年と半世紀近く前です。しかも敦賀―新大阪間の延伸は、与党PTが国会などに諮ることなく一方的に決めた案で計画が作成され、それに基づいて予算が粛々と執行されています。本当に必要な計画なのか、住民の意見をきちんと反映させ、賛否含め計画を再検証すべきだと思います。

(「週刊京都民報」11月18日付より)