お金の心配なく、誰もが安心して受けられる歯科医療制度をつくろう―と「『保険で良い歯科医療を』京都連絡会」が5月に結成されました。代表世話人の秋山和雄・京都府歯科保険医協会理事長に、歯科医療をめぐる現状や運動の意義などについて聞きました。

「入れ歯」運動で報酬アップ

  ――90年代に広がった「保険で良い入れ歯を」の運動から4半世紀。これを発展させた「保険で良い歯科医療」を 求める地域レベルの運動団体は、京都が8つ目です。

 全国的には1992年、「噛めない、話せない、笑えない」入れ歯の話というNHKテレビの特番で、入れ歯の具合が悪いと答えた人が50%にのぼることが放映されました。すごい反響があり、これが発端になって、保険適用の良い入れ歯を求める大きな運動が起こりました。

 歯科は、保険と保険外(自己負担)の混合診療です。診療報酬で、保険点数があまりにも低く抑えられているのが合わない入れ歯の原因です。自費でお金を出せば、良い入れ歯は作れるけれど、患者負担を抑え歯医者も赤字にならないよう、安価な入れ歯を作ろうとすると、うまく噛めない入れ歯になっていたわけです。

 「保険で良い入れ歯を」の運動は、患者の潜在的な要求と、良い仕事をしたいから保険点数をもっと上げてほしいという歯医者の願いが一緒になって、全国で広がったんです。その結果、入れ歯を中心に保険の点数は40%アップしました。

〝口腔崩壊〟が小中生26万人

  ――その後、問題になってきたのがワーキングプア。経済的格差が健康格差を生む、深刻な事態となっています。

 昨今では、未治療の虫歯が10本以上ある「口腔(こうくう)崩壊」状態の子どもたちが増えています。全国保険医団体連合会が発表(7日)した、全国の「学校歯科治療調査」の中間報告では、小学校の歯科検診で「要受診」となったが医療機関にかかっていない子どもが半数を超え、小中全体で約26万人。大阪府歯科保険医協会の調査では、大阪府内で「口腔崩壊」の子どもが少なくとも464人いると発表されています。

 学校で歯科検診をして、その効果が及ぶのは経済的にゆとりのある家庭です。一人親や、歯の状態に関心が向かない家庭だと、「乳歯は永久歯に生え変わるから放っておいてもいい」となりがちです。でも、歯みがきの習慣がない子どもは、永久歯が生えても不衛生なまま過ごし、虫歯になる。背景には経済的困難があります。

 また、昨秋、「子ども医療費無料制度を国と自治体に求める京都ネットワーク」(略称・子ども医療京都ネット)が取り組んだ健康とくらしのアンケート調査では、「歯科矯正治療にも補助を」という願いがたくさん寄せられました。

 学校検診では虫歯だけでなく、歯並びを良くするよう指導します。矯正治療には、2年で50~60万円、高額だと100万円近くかかりますから、子育て家庭にとって大きな負担ですよね。

歯科医療軽視政策が根底に

 そもそも、全医療分野のなかで、歯科だけが混合診療というのは問題です。国は、歯科疾患は生命・労働への影響が少ないといって、歯科医療軽視の政策を続け、歯科の保険点数を低くして、保険がきかない治療で稼ぐよう促しています。

 ですから、歯科医の中でも格差が生まれ、5分の1が収入500万円以下。入れ歯を作る歯科技工士も低収入で、希望する若い人は1000人以下(2017年)と、10年間で半減しており、技術継承も危ぶまれる事態です。

 歯科医、患者の両方の立場で、歯科医療問題を改善しなくてはいけないと考えています。

  ――「保険で良い歯科医療」を求める運動を、歯科医療だけではなく、社会保障拡充の国民的運動として広げていこうと賛同を呼びかけています。

 安倍晋三首相は、昨年の衆院解散総選挙で、「全世代型社会保障」を最大の争点と言いました。しかし、「骨太の方針」(15日閣議決定)の中身は、消費税10%への大増税(19年10月)、社会保障の新たな国民負担増です。
 
後期高齢者の窓口負担が1割から2割に増えたんじゃ、病気をしても医者にかかれません。現役世代だって、経済的負担が大きく、長時間労働では、歯科には行きにくいでしょ。

 こういう時に、だれでもいつでも、保険証1枚で歯科医療にかかれる運動を、社会保障全体を良くする視点で取り組んでいかないとだめだと思います。

 ぼくが歯医者になった頃は、京都、大阪、東京と革新自治体ができ、老人医療が無料になりました。それに、夕方5時過ぎになるとサラリーマンの患者が増えて、歯医者は忙しくて大変だった(笑い)。

 大企業の内部留保は年々増えているんだから、少し、社会保障の財源に振り向ければ国民みんなに還元されるんじゃないですか。

 おいしく、楽しく食べることは、健康の基本です。お口の健康のために、ご一緒に運動を広げていきましょう。

 「保険で良い歯科医療を」京都連絡会は、17団体4個人が賛同。個人1口1000円、団体1口3000円の会費、および募金で運営。事務局☎075・746・7680(京都府歯科保険医協会内)。
 

あきやま・かずお 1941年東京都生まれ。68年東京歯科大学卒業。国立東京第二病院(現東京医療センター)、宮城県の牡鹿町国民健康保険病院(現牡鹿病院)などで勤務医を経て、82年京丹波町に秋山歯科診療所開業、同所長。京都府歯科保険医協会副理事長(90年~)を歴任し、2016年から理事長。

(「週刊京都民報」6月24日付より)