モーツァルトのオペラを大蔵流狂言役者・茂山千之丞さんが大胆に狂言風にアレンジした「狂言風オペラ」シリーズの「フィガロの結婚」が3月、装いも新たに再演されます(京都、大阪、東京)。

■大蔵流狂言師・茂山千之丞さんが初演を演出

 「狂言風オペラ」は、作品の舞台を京都に置き換え、海外の管弦楽団がモーツァルトの名曲を演奏するなか、狂言師が歌わずに演じるもので、日本と西洋の伝統が協演する斬新さが話題を呼びました。

 関西歌劇団の演出を手がけ、映画、舞台にも出演する千之丞さんにほれ込んだプロデューサー白神克敏氏が企画を持ちかけて誕生し、2002年の「ドン・ジョバンニ」を皮切りに、「フィガロの結婚」「魔笛」「コジ・ファン・トゥッテ」を上演。10年の千之丞さん没後も茂山一門で続けられ、日独交流150年記念のドイツ公演(11年)で大成功を収めました。

 「フィガロの結婚」は、浮気者の伯爵に仕える家臣フィガロと、伯爵夫人に仕える小間使いスザンナとの結婚式が迫るなか、スザンナに手を出そうとする伯爵の裏をかき、伯爵夫人とスザンナらが協力して一泡吹かせる話。
 狂言風オペラでは伯爵を中将、伯爵夫人を北の方、家臣を随身、小間使いを女房などに置き換え、いにしえとも現代ともつかない世界を創出します。

 初演時は、千之丞さんが監督・演出を担当し、中将役でも出演。北の方を創作人形が演じました。今回は、総監督に千之丞さんと親交が深かった観世流シテ方の大槻文藏さん(人間国宝)、脚本・演出に音楽大学声楽科出身でオペラ「フィガロの結婚」にも出演した笛方藤田流十一世宗家・藤田六郎兵衛さんを迎えます。

 出演陣に文楽と能のシテ方が新たに参加。中将を桐竹勘十郎さん操る文楽人形が、北の方を能シテ方の赤松禎友さんが女面・女装束で演じます。このほか、狂言師の茂山あきら、茂山茂、野村又三郎、山本善之の各氏、文楽からは、豊竹呂太夫(太夫)、鶴澤友之助(三味線)の両氏が出演。管弦楽は、スイスを拠点に活動するクラングアート・アンサンブルが担当します。

継承と発展を狂言風オペラ実行委員会会長・林田英樹さん(元文化庁長官) 日本の伝統芸能の総結集。継承と発展を進め、少しでも未来に貢献できるよう応援したい。

実験的な舞台同副会長・山折哲雄国際日本文化研究センター名誉教授 モーツァルトの秩序ある世界と、狂言の「狂」の字に象徴される日本の演劇世界の「狂い」とが衝突する大変実験的な舞台。

新たな世界を脚本・演出・藤田六郎兵衛さん オペラ好きの方、日本の伝統芸能が好きな方すべてに「こんな世界があるのか」と喜んでいただけるようがんばりたい。

 【京都公演】 3月22日午後6時半(6時開場)、京都府立けいはんなホール(精華町)。S席10000円、A席8000円、B席6000円、学生2000円。全席指定。問い合わせ☎06・6451・6263(ヴォイシング)。

(写真上=文楽人形で演じられる中将。人形遣いは桐竹勘十郎さん 写真下=スイスを拠点に活動するクラングアート・アンサンブル。ルツェルン音楽大学の教授陣が集まり10年ほど前から活動している管弦楽団

(「週刊京都民報」12月10日付より)