20160409-01(photo byi北陸

 北陸新幹線の敦賀以西への「延伸」計画をめぐり、京都府を通過する案が急浮上しています。詳細な情報や問題点が明らかにされないまま、ルート決定を急ぐ政府・与党、関係自治体の首長、JR西日本の姿勢に、地元住民から「メリットがわからない」「在来線の増便や複線化こそ必要」と不満の声が上がっています。日本共産党京都府委員会は3月25日、同計画の問題点を明らかにした「見解」を発表し、地域住民への情報公開や徹底した議論を求めています。

■結論・ルートありきで検討

 同計画を策定する与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)の「敦賀~大阪」間の案は、「舞鶴ルート」「小浜・京都ルート」「米原ルート」の3つに絞りこまれています。しかし、建設費や住民生活への影響、環境問題などについて詳細な調査・検証は行われておらず、「結論とルート先にありき」で計画が進められています。
 「並行在来線問題? 知りません。在来線が今より不便になるんやったら、新幹線なんかいらん」。JR山陰本線・鍼灸大学前駅(南丹市日吉町)で通院の利用客という女性(83)が声を上げました。

■「経営分離」で値上げ・減便

 新幹線計画の重大問題が「並行在来線の経営分離」です。これは政府・与党合意により、新幹線が開業したルートに並行する在来線をJRの経営から分離するというもの。
 
 実際に各地で経営分離された在来線では、路線の縮小・廃止、運賃値上げなどが起こっています。運賃値上げは、「IGRいわて銀河鉄道」(58%)、「肥薩おれんじ鉄道」(50%)、「青い森鉄道」(37%)、「しなの鉄道」(45~61%)、「IRいしかわ鉄道」(14%)、「あいの風とやま鉄道」(3~12%)で実施(下記表参照)。また、新幹線開通により、特急列車の「サンダーバード」と「しらさぎ」は一部(金沢~富山間)廃止、北陸~上越間を結ぶ「はくたか」は全てが廃止されました。富山~金沢間や富山~京都・関西圏は、特急一部廃止によりアクセスが悪化しています。
 
 山田啓二府知事は2月議会で並行在来線のあり方について「採算の悪いところを一方的に押し付ける話」と批判。滋賀県・大津市議会は3月、湖西線が経営分離されて並行在来線となることに反対する決議を全会一致であげています。
 
 JR山陰本線や舞鶴線を利用する乗客に話を聞くと、性急な新幹線整備よりも在来線拡充を求める声が多く寄せられました(別掲)。
 「この地域に新幹線は関係ないし、私は使わない。それより本数を増やしたり、バリアフリーにしてほしい」(胡麻駅、70歳の女性)、「通院でバスは使うけれど、電車には乗らない。新幹線開通よりバスの本数を増やしてほしい」(福知山駅、78歳の女性)。
 福知山市の松山正治市長は、2月の記者会見で「複線化をしてから新幹線を誘致するのが普通」と述べています。
 
 巨額の費用負担も問題になっています。東海道新幹線へ最短で結ぶ「米原ルート」(約5100億円)に比べ、「舞鶴ルート」や「小浜・京都ルート」は、迂回距離が大きく、建設費は約1兆円規模と想定されています。直近の北陸新幹線「長野~金沢」間の総工事費は、約1兆7800億円で、およそ3分の2を国が、3分の1を地方自治体が負担しており、地方自治体への財政負担も巨額になります。住民も「新幹線に莫大なお金を投じてもムダ。地元住民は車ばかり使っているから、だれも乗らないんじゃないか」(東舞鶴駅、74歳の女性)と声が寄せられました。

■芦生原生林に新幹線通る?

 また、自然環境への影響も懸念されています。府域を通過する「舞鶴ルート」「小浜・京都ルート」の場合、今年2月に国の審議会で指定が決まったばかりの「京都丹波高原国定公園」を通過することになります。同公園は、京都・南丹・綾部3市と京丹波町にまたがる約6万9000㌶もの地域で、由良川源流にはブナや芦生杉などの「芦生原生林」が残り、イヌワシやニホンカモシカなどの天然記念物が生息。環境への影響などは調査されておらず、日本共産党の見解では「こうした豊かな緑と自然環境、景観を破壊することは、とうてい許されません」としています。

160403運賃値上げ

■北陸新幹線とは――
 北陸新幹線は、東京を起点に長野、富山、金沢、福井などを経由して大阪へ向う総延長約700㌔の路線。長野までが1997年、金沢までが2015年3月から営業運転しています。敦賀までは23年に開業予定です。
 
 「敦賀~大阪」について、73年に国の整備計画に「小浜ルート」(京都駅を経由せず大阪へ向かうルート、現在は検討対象外)が盛り込まれました。関西広域連合は13年に「小浜ルート」と、東海道新幹線の米原(滋賀県)につなぐ「米原ルート」、「湖西ルート」(現在は検討対象外)の3案から、「米原ルート」の支持を決定しました。
 
 しかし、与党PT委員長の西田昌司参院議員が昨年、小浜から舞鶴→京都駅→天王寺→関西国際空港へ向う「舞鶴・関空ルート」(現・舞鶴ルート)を提案。JR西日本も小浜→京都駅を通過する「小浜・京都ルート」を提案し、関西広域連合は「米原ルート」支持を撤回。与党PT検討委は、「舞鶴ルート」「小浜・京都ルート」「米原ルート」の3案に絞り、今月中にも国土交通省にルート調査を発注するとしています。

■自治体・議会で調査・検証を行い、住民への情報公開、徹底議論を

 日本共産党京都府委員会は3月25日、北陸新幹線「延伸」計画への見解「関係自治体、議会で問題点の調査・検証を行い、地域住民にすべての情報を公開し、徹底した議論を~問題山積のまま『結論とルート先にありき』の決定は許されない~」を発表しました。

 同見解では、(1)新幹線ルートと併設する「並行在来線」はどうなるのか(2)地域は衰退しないのか。山陰線全線複線電化実現など地域交通網の充実こそ急ぐべき(3)1兆2000億円もの新規大型開発を安易に決定していいのか(4)地元自治体の財政負担、「立ち退き」など住民負担はどうか(5)「京都丹波高原国定公園」の環境破壊にはつながらないのか――の5つの問題を提起。府や京都市、府北部はじめ府内自治体で調査・検証を先行させ、すべての情報を公開し徹底した議論を行うよう求めています。

 「見解」は同党府委員会のホームページで見ることができます。