ハス 連日、35度36度代の猛暑がつづく京都地方ですが、長岡京市の長岡天満宮(通称長岡天神)の八条ケ池の水上橋東側の水生植物園(カキツバタ園)では、蓮の花が一面に咲き、猛暑を一時忘れさせてくれます(写真)。
 長岡天神の蓮は友好都市の中国寧波市から1996年に約150株が贈呈され定植され、大切に育てられて今では約300株に増えています。猛暑の真昼は人影も有りませんが、早朝散策しているたくさんの人達の清涼になっており7月いっぱい鑑賞できそうです。長岡天神の蓮(ハス)は西湖紅蓮といい、東湖紅蓮や艶陽天、嘉祥蓮などと同じ仲間です。ハスはインド原産(インドの国花)で中国を経由して遠い昔に日本に渡来。スイレン科ハス属、学名はNelumbo nucifera、和名のハチスは果実の入った花床(花托)が鉢の巣に似ているので蜂巣(中国では蓮、荷、芙、蓉や藕と多様な漢字)。花は紅、ピンク、白、紅紫など大きくてとても美しいです。根っ子(根茎)はレンコン(蓮根)で食用。
 ところで仏教で紅蓮は紅色の花を意味しますが、読みはグレンで、八寒(ハチカン)地獄の第7番目「紅蓮地獄」の略が紅蓮(グレン)。ハスの花がちょうど猛火に包まれたような色と形で、血で染まった地獄を表すとか。しかし、仏像は蓮台の上に座ったり立ったりで、また十一面観音像では手に蓮の花を持っていたり、仏事では蓮の花びらを形取った散華(サンゲ)を撒いて仏の慈悲にふれ、また「泥中の蓮」は煩悩の汚泥から清純な仏の化身をも意味するようで仏教では聖華ともなっています。嵐山の天竜寺をはじめ多くの神社仏閣の池には紅蓮が植生されています。
 蓮を愛でた詩は短歌や俳句にもたくさん登場します。蕪村、鬼貫、漱石、子規、西行法師、良寛、藤村、白秋や朔太郎他たくさん読まれています。2句紹介しておきましょう。(仲野良典)
 「涅槃は熱帯の夜明けにひらく巨大な美しい蓮華の花か」(萩原朔太郎)
 「ひさかたの雨の降らぬか蓮葉(はちすば)に溜まれる水の玉に似る見む」〈雨でも降らないかなあ。そうしたら、蓮の葉に溜まっている水が玉にそっくりなのを見よう〉(出典=岩波書店刊『新日本古典文学体系』第4巻「萬葉集」)