不惑のアダージョ 京都出身の女性映画監督・井上都紀さん(37)の劇場デビュー作『不惑のアダージョ』上映が下京区の京都シネマで9日から始まりました。更年期を迎えた女性の心と体の変化を丁寧な映像で描いた作品で、多くの女性の共感を集めています。
 初日は大入り。井上監督は上映後の舞台あいさつで「映画に自分の人生が反映されて、丸見え状態です。でも見て頂いた多くの“先輩”から更年期は終わりじゃないよ、と励まされました。女性は自分を投影して見てくれます。このテーマを選んでよかった」などと語り、会場からは拍手が送られました。
 主人公は40歳の修道女・真梨子(柴草玲)。神に身をささげ、教会でオルガンを弾き、規律正しく生きてきましたが、更年期という言葉にあせりと揺れを感じ、一歩踏み出すことで女性として変化していきます。セリフが少なく、美しい映像とミュージシャンの柴草さんが奏でる曲も魅力の一つです。
 これまで、オランダのロッテルダムやローマなど10の国際映画祭に出品し、イスラムの女性監督からは「これは私たちの映画」と声をかけられました。国内12カ所以上での上映も進み、9月にはDVD発売も決定しました。
 井上監督がこの映画を撮った時は34歳。友人から35歳は高齢出産になると聞き、自分の年齢と体、生き方に向き合ったと言います。「いろんな人に話を聞くと、更年期って理解されにくく、1人で受け入れていると言う人が多かったです。初潮は家族に祝福され、閉経は1人でさびしく終わる、これって何故だろうって思ったんです。だれもやっていないテーマなので、ちょっと背伸びしましたが、普遍的な映画になったと思います」
 京都市上京区生まれ。中学校入学と同時に単身で上京、自炊しながらバレリーナを目指しましたが挫折。武蔵野美術大学で油絵を学びながら演劇サークルに入部。舞台の仕事を手伝った時、俳優養成所の目にとまり、女優の付き人になりました。映画の撮影現場に入り、働くスタッフの姿に刺激を受け、映画学校に通い始め、29歳で助監督、32歳で監督した短編作品が評価されました。派遣会社で働きながら自主制作した短編が、2008年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」オフシアター部門グランプリを受賞し、その副賞の制作支援金で撮った初めての長編映画です。
 「女性をテーマに撮っていきたい。女性って千変万化で面白い生きもの。じっくりと観察しながら、次の作品作りにかかりたいと思います」
 京都シネマで15日まで。上映時間は13時から。問い合わせ先は京都シネマTEL075・353・4723。