仕事中にケガをして3週間ほど欠勤しました。会社からは、補償金が支払われましたが、賃金の6割しか支給されません。労災に申請はしていません。もっと賃金をもらうことはできないのでしょうか?(35歳、男性、京都市)

「業務上の負傷」には様々な保護や権利あり

(86)仕事中にケガイラスト・辻井タカヒロ

 仕事中にケガをしたときは、通常、「業務上の負傷」と考えられ、様々な保護や権利があります。
 まず、労働基準法は、業務上の傷病について使用者の災害補償責任を定めています。治療費全額に相当する「療養補償」、負傷のために休業したときの「休業補償」〔A〕を受けられます。〔A〕の額は、休業1日目から平均賃金(負傷の前3カ月の賃金総額を暦日で割った額)の60%以上です。実際は、一人でも労働者を使用する事業に強
制適用される労災保険の方が有利です。
 労災保険では、治療費全額に相当する「療養補償給付」と、休業4日目から「給付基礎日額」(平均賃金とほぼ同じ)の60 %の「休業補償給付」〔B〕を受けることができます。さらに、「休業特別支給金」〔C〕として、20%相当額がありますので、実質的には〔B〕と〔C〕を合計した80%相当額を受けることができます。
 この場合、最初の休業3日分は、〔B〕と〔C〕では支給されませんが、〔A〕の3日分は受けることができます。
 治療費についても、健康保険では自己負担分(3割)がありますが、労災保険では自己負担がありません。この点も確認して下さい。ご相談では、労災申請をしていないということですが、休業3週間という大きなケガをされたのですから、労働基準監督署長に労災保険給付の支給を申請するのが適当だと思います。
 なお、事業主は、労働安全衛生法で、休業4日以上の大きな事故では「遅滞なく」、労働基準監督署に「死傷病報告」をする義務があります。労災の手続きをしていないことから、会社には「労災隠し」の疑いがあります。
 もし、安全配慮義務違反などがあれば、会社の損害賠償責任を追及することもできます。その場合には、「賃金の6割」や労災保険給付以上に、実際に生じた損害全額を請求することができます。
 迷わずに、働くもののいのちと健康を守る京都センターや地域労組に相談されることを勧めます。(「週刊しんぶん京都民報」2011年6月19日付

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。