機械製造会社で働いています。数カ月後に海外の現地工場に移転することになりました。私には日本の労基法は適用されるのでしょうか?(42歳、男性、宇治市)

事前に「出向協定」を結び就業条件決める

(84)海外で労基法適用は?イラスト・辻井タカヒロ

 労働行政の扱いでは、通常、長期の転勤や派遣の形式で海外に勤務する場合(以下、「海外派遣」)、現地の工場や支店などには日本の労働基準法は適用されません。これに対して、短期の出張などの場合(以下、「海外出張」)は、日本国内の事業の延長と考えられ、実際の勤務が海外であっても日本の労働基準法が適用されます。ご相談の場合、現地工場への移転ということですので、長期の海外派遣にあたると思います。
 現地工場が単に海外にあるというだけであれば、会社との労働契約はそのままです。この場合、労働基準法違反(賃金不払いなど)について会社に責任があれば、罰則適用はされませんが、民事責任を追及することはできます(昭和25年8月24日基発776号)。
 現地工場が、現地法人に所属するのであれば、海外派遣は会社からの「出向」という形になると思われます。一般的なのは、現在の会社(出向元)に籍を残したまま「休職」の形をとり、出向先(現地法人)との間でも新たに労働契約を結ぶことにして、「二重の労働契約」が生じると考えられる場合です。
 この場合、出向元、出向先、労働者の間で、事前に「出向協定」を結んで現地での就業条件の詳細を決めておくことが必要です。
 とくに重要なのは、労働・社会保険の適用です。まず、労災保険は海外派遣の場合には原則として適用されませんので、会社に「海外派遣者の労災保険特別加入」の手続きを事前にさせることが必要です。
 健康保険と厚生年金については、現在の会社で従来通り、日本の制度を適用することが考えられます。この場合、健康保険では海外の医療機関で支払った医療費を後で払い戻すなどの手続きが必要です。
 これに対して、現地の制度を適用する場合、日本の制度より不利にならないようにさせる必要があります。とくに年金については、日本はいくつかの外国との間で「社会保障協定」を結び、加入期間の通算などを決めています。この点も事前に調べて確認しておくことが必要です。(「週刊しんぶん京都民報」2011年5月22日付

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。