福井県若狭湾の原発立地自治体には、子どもに「原発安全神話」を振りまく豪華な原発PR施設があります。無料で利用できるため、地元の親子たちが公園や児童館の代わりに利用する遊び場になっていました。訪れていた母親たちから話を聞くと、「原発は怖い」「事故が起こったら子どもと逃げるしかない」といっせいに声を上げました。

「安全神話」の施設で母親ら「原発怖い」

福島のようになるかも

 「原子力発電は、事故が起こっても十分な安全対策がとられているんだよ」│と強調するロボットがいるのは、高浜町にある関西電力の巨大PR施設「エルどらんど」。数組の子連れの母親たちが遊びに来ていました。
 「原発事故が起きたら、放射能の汚染が怖い」。こう話すのは、舞鶴市に住む2歳児の母親(34)。舞鶴市から車で約30分のこの施設には、舞鶴市民の利用が目立ちました。
 この母親は「高浜原発で事故が起こったら、近くの舞鶴も同じような被害を受ける。福島の自治体のように住めなくなるかもしれません。事故があれば私の実家のある島根県へ子どもと逃げると決めています」と話します。
 同施設を利用していた30代の母親=舞鶴市=は「私の夫は原発で働いています。原発が動かないと舞鶴や高浜の経済は活性化しない」と強調する一方で、「でも事故が起こったら、子どもと逃げないといけない。原発が必要かどうかは、言えません…」と複雑な表情を見せました。
 「すぐれた技術 確かな安全 世界に示す『もんじゅ』」─と巨大な横断幕を掲げるのは、日本原子力研究開発機構のPR施設「アクアトム」(敦賀市)。
 無料で上映されている映画を見に来ていた母親(27)=敦賀市=は、「原発事故が起こったら実家が舞鶴なので、逃げようと思っています。でも舞鶴は近すぎるので、もっと遠くへ逃げないといけないかも…。周り人たちは、原発関連で働く人も多くて、原発事故の話題はあまりできません。でもみんな原発に不安があると思います」と話します。

子どもたちのためにやめて

 財団法人福井原子力センターが運営する施設「あっとほうむ」(敦賀市)では、原発の安全性や必要性を訴えるクイズ・ゲームのコーナーが目立ちました。
 子どもとクイズに興じていた母親(30)=越前市=は「原発は怖いですね。事故が起こったら、家族各自で逃げて、新潟で集合すると決めています。福島のように町がなくなってしまうほどの被害を出すなんて想像もできなかった。子どもたちのために、自然エネルギーなど安全なものに変えてほしい」と話しました。
 原発の問題点について一貫して追及してきた日本共産党の佐藤正雄・福井県議は、こうしたPR施設について「未曽有の被害を生んだ福島原発事故が起こっても原発の安全性ばかりを宣伝している」と批判。福井県では、小・中・高校などで安全性ばかりを強調した原発教育を行ってきた問題を示し、「電力会社や国は、原発の安全性の問題点や、放射線防護の学習など、国民の安全を守るための教育に責任を果たすべき」と話しています。(「週刊しんぶん京都民報」2011年9月25日付掲載)
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1市3町に8カ所

 14基の原発が集中立地する若狭湾沿岸の1市3町(敦賀市、美浜町、おおい町、高浜町)には、原発の安全性や必要性などを訴えるPR施設が8つあります。
 電力会社が数十億円かけて作ったとされるこれらの施設には、巨大映画スクリーン、ゲーム・クイズコーナー、水族館、ロボット、宇宙船を型どったものなどがあり、アミューズメントパークのような豪華さです。各施設で「原発はクリーンで安全」「5重の壁で守られ、放射能は漏れない」と安全性を強調。これらの施設の大半は無料で利用でき、県内や県外から小、中、高生らが見学に訪れているといいます。
 高浜町の「若狭たかはまエルどらんど」(関西電力)は熱帯雨林をテーマにした大きな温室、世界中の熱帯魚が泳ぐ水族館があります。おおい町の「エルガイアおおい」(関西電力)には、幅22、高さ6メートルの大型映像シアターがあり、原子力発電所のバーチャル見学ツアーなどが上映されています。
 高速増殖炉「もんじゅ」を稼動させている日本原子力研究開発機構の施設「アクアトム」(敦賀市)は高さ30メートルの展望室があり、ゲームコーナーや書道の展覧会などが行われています。また、同市の「あっとほうむ」(福井原子力センター)では巨大スクリーンと50台のモニターでクイズに挑戦できます。
 その他に、日本原電の「敦賀原子力館」(敦賀市)、日本原子力研究開発機構の「エムシースクエア」(敦賀市)、関西電力の「美浜原子力PRセンター」(美浜町)、「エル・パーク・おおい『おおいり館』」(おおい町)、などがあります。