ある「日雇い派遣」会社に登録して働いています。職場が、他府県に行くことも多いのですが、交通費は支給されません。面接の時もそう説明されたのですが、いっしょに働いている人の一部には、交通費が支払われているようなんです。その人に聞くと「交通費出さないと仕事に行かないぞ」と交渉したら出るようになったそうです。いい加減な会社ですが、私も交通費がもらえるのでしょうか? (35歳、男性、京都市)

支払い基準あれば求めることできる

(18)交通費もらえるの?イラスト・辻井タカヒロ

 所得税法では、役員や使用人に通常の給与に加算して支給する通勤手当や通勤定期券などは、1か月当たり10万円まで非課税となっており、通勤手当支給が一般的な賃金慣行となっています。
 請負契約や業務委託契約では、通常、労働を提供する側(建築、運送などの業者)が、業務関連の必要経費を負担します。これに対して、労働者として働くときには、労働契約(または、雇用契約)を結びますが、労働契約では、使用者の指揮命令を受けて働くことと、使用者に比べて労働者側が経済力が弱いことが前提になっていますので、業務関連の必要な経費は、労働の提供を受ける側の使用者が負担するのが当然だと考えられてきました。
 しかし、正社員では当然と考えられていた通勤手当や交通費も、自宅から通えるパートなどで交通費を支払わない例など、交通費を支払うという従来の慣行が崩れてきて、非正社員については必要経費(交通費や制服代など)を労働者が負担させられるという相談が増えています。労働基準法や最低賃金法が交通費の支払いを明文で使用者に義務づけていないので、法の「隙間」をねらって労働者負担を拡大していると言えます。
 ご相談の場合、まず、関連した契約条項や就業規則等の会社規程を確認して下さい。労働基準法では、交通費や通勤手当について特別な規制はありませんが、労働契約や就業規則で交通費や通勤手当の支払、基準などが明記されているときは、それらが賃金に含まれることになります。他の従業員について支払われているとすれば、その根拠となる支払基準があるはずです。従業員によって交通費支給を変えるのは合理的理由がない限り、差別的扱いで許されません。あくまで、交通費も賃金として支払いを求めることが必要だと思います。
 ただ、個々の交渉では会社側が強い立場に立ちますので、納得のいく解決は難しいと思います。できれば、迷わずに地域労組に相談して、組合と一緒に交渉して解決するのがベストだと思います。(「週刊しんぶん京都民報」2008年7月13日付)

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。