ベンチャー企業で17年間働いてきました。突然数万円規模での給料引き下げが、一方的に通告されました。理由を聞いても、会社は何も説明さえしてくれません。どうしたらいいでしょうか。(京都市、男性、37歳)

一方的に労働条件変更はできない

(2)突然数万円の賃下げ
イラスト・辻井タカヒロ

 まず、給料(法的には「賃金」という)などの「労働条件」は当事者の合意で決定されますので、労働者の合意なく一方的に労働条件を変更することはできません。切り下げの理由や代わりの措置の説明が必要です。
 もし、使用者(会社)から「引き下げに応じないと解雇する」と言われても、必要な説明がありませんので解雇は乱用的で無効です(労働基準法18条の2)。労働者としては、あくまでも引き下げに同意しないことが基本です。使用者が法的根拠なく減額した給料だけを払っても、「賃金全額払い」原則に違反することになります(同法24 条)。
 次に、他の同僚労働者も含めての引き下げであれば、会社の業績が悪く、従業員全体の給料を引き下げるために就業規則(賃金規程)が変更された可能性があります。就業規則は、常時10人以上の事業場毎に使用者が作成義務を負うもので、変更の際には労働者の過半数代表の意見を聴いて、労働基準監督署に届け出る必要があります(同法89条、90条)。
 裁判例では、労働条件の一方的引き下げなど、労働者にとって「不利益な変更」には合理性が
必要とされ、合理性のない変更は権利乱用で無効となります。これまでの裁判例では、(1)業務上の必要性の有無、(2)労働者が受ける不利益の程度、(3)代償措置の有無、(4)変更手続きの適正さなどを基準にして、変更の合理性が判断されています。
 ご相談の場合、(1)業務上の必要性を会社は示していません。(2)労働条件のなかで一番重要な給料を月数万円も引き下げるのは余りに大幅です。また、(3)代わりの措置もないようですし、(4)何の説明もない突然の引き下げは手続き的に適正と言えず、どの点でも変更に合理性がありません。
 話し合いに会社が応じないときには法的対応も可能です。ただ、個人での対抗だけでは、使用者は労働者を「解雇」する危険性が大きいと思います。職場に労働組合があればその労働組合を通じて、なければ地域労働組合などに相談して団体交渉を通じて集団的に対抗することが有効だと思います。(「週刊しんぶん京都民報」2008年3月9日付)

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。