湯浅誠氏の講演(6)
 今回は職場単位で非正規が切られています。キャノンの宇都宮工場には600人の請負労働者が入っていましたけど、全員解雇です。今まで無遅刻、無欠勤で、仕事でたいしたミスも起こしたことのない人まで含めて切られていますから、どうしろってんだと言う話になりますよね。こういうことは、派遣切りの被害者だけではなくて、低収入で働く介護や福祉の現場の正社員や非正規の様々な人たちが、家から出るに出られずにいるわけです。そういう中で余裕がなくなって家庭の中のストレスがたまっていくわけです。
 3年前かに京都で、50代の男性が80代のお母さんと一家心中して自分が生き残っちゃったという事件がありましたよね。翌年には大阪でも同じような事件があったわけですけれども。家族が抱えている間は社会的には見えませんから問題のない家庭だということになるんですが、家族内ストレスが高まっていく中で、何かの拍子に事件が起こったりするわけです。それで初めて社会化されるので、一般的には、とんでもない親がいた、とんでもない子がいたもんだという話になって終わってしまうわけです。でも、家族は私的なセーフネットですから、公的なセーフティーネットが機能していない中で、全部肩代わりできるようにはできていません。残念ですが、今後こういう事件は増えていくと思いますが、「世の中、世知辛くなっちゃったわね」「家族の愛情がなくなってきたわね」というような話だけで終わらないようにする必要があるだろうというふうに思います。ともかく家族のもとに帰る人が大量にいるというのが1点目です。
 2点目は、自殺です。これは、少し前に27歳の男性が埼玉県で電車に飛び込み、自殺をしたという報道がでましたが、報道されないような自殺が起こっていると思います。「派遣村」もそういう人がたくさん来ました。1月2日の夜に、37歳の男性が神奈川県で自殺しようとしたんですが、周辺住民の人が見つけて通報し、警察が説得して保護してたんです。でも警察も、病気じゃないから病院につれていけない、悪いことしたわけではないから留置所に入れるわけにもいかないと困ってしまったらしく、テレビでやってたというわけで(笑い)、「派遣村」に電話がかかってきた。今から1人連れて行くからよろしくって言ってわざわざ警官2人ついてきて、お願いしますって(笑い)。その人も今アパートに入っていますけど。先ほどの亡くなった27歳の男性と連れてこられて今アパート入っている37歳の男性と何にも違わないわけですよ。一方はたまたまそうやってつながってつながって、生活ができた。他方はそこのたまたまのつながりがなかったから、そのまま亡くなった。ラッキーかアンラッキーかで、生き死にが分かれる社会、これほど理不尽なことはないです。人間の命は、そんなに偶然性に左右されてはいけない。なんだけど実際は相当にそれによって左右されちゃっているわけです。08年の12月24日に、「年越し電話相談会」をやった時も、1日14時間で、2万件の電話がかかってきました。そのうちとれた電話は1700人しかいませんでした。そのたまたまつながった1割の人と、つながらなかった9割以上の人とそこで分かれたんです。そういうことは、どう考えてもおかしいわけです。(つづく)