湯浅誠氏の講演(3)
 東京に「フリーター労組」という組合があります。私も賛助会員ですが、そこの組合員の人がうまい表現をしていて、「俺らが今突き付けられているのは、カレー味のうんこを食うか、うんこ味のカレーを食うかどっちにする、と言われているようなものだ」と。(「うわー」と、驚きの声)
 そういうような状態が労働市場に広がっていると。だから大企業では、産業カウンセラーとかいう講習をしきりにやっていますよね。放っておくと病気になるような働き方をしておいて、でも病気になってもらったら困るのでカウンセリングを企業内でやりましょう、という話になっています。カウンセラーを置く前に働き方を見直せばいいと思うんですけど、かなりいびつな状態になっちゃっていますね。
 そうすると労働市場からいろいろな形でこぼれる人が増えてきます。4、5年前までは、私たちの「もやい」に生活相談に来る人というのは、労働市場からはじかれた人が多かったんです。だけど今は働いているけど食べていけないという人が多いですね。それは、労働相談を受けている労働組合も同じで、今は労働のトラブルをかかえて生活もできないという人が増えています。ですから、生活の相談に来るか、労働の相談に来るかはほとんど入り口の問題に過ぎなくなってきています。話を聞くと相談内容は同じだったりします。ですから、生活部門と労働部門、それだけにかかわらず借金、多重債務、メンタルヘルスのクリニックとか、いろいろなところをネットワークでつないでいかなくてはいけなくなってきました。抱えている問題が複合的になっていますから、1つのケースにちゃんと対応しようとするとネットワークをつくらないと解決できない。それをやらないと、結局は生活が立て直らないということになっちゃうんです。いろんなところで相談の側のネットワーク、運動側のネットワークが必要だというのは、勢力拡大のためではなくて、そういう個別のケースに対応しようとすると必要になるということです。
 話に戻りますと、そうやって労働市場が壊れて、もれてくる人が増えてくる。そこで、失業保険とか雇用保険というのが受けられるのかというと、今回の「派遣村」に来た人も典型的ですけれども、受けられる人は実際は多くないんですね。学者さんの試算によると、今、失業して失業保険を受けている人は10人に2人しかいないんです。10人に8人は受けていないという状態ですから、大量の人がもれちゃう。今回「派遣切り」に遭った被害者の人は12万4000人といわれていますね。厚労省はそのうち99%は雇用保険に入っていますよと言うんですけど、じゃあその人たちが受けられているかというと、例えばこんなことがあるわけです。
 会社側は、“今すぐあなたが離職表がほしいというなら自己都合になるよ”というわけです。自己都合の離職表をもらうと3カ月のペナルティーが付きます。3カ月間の生活費を持っていない状態で寮も追い出されてしまうと、雇用保険をもらおうと思っても、住所不定状態になって受けられないということになります。結局、受給資格はあるけど、もらえないということになるんです。(つづく)